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おなかのすいたカラス


 青く透き通るような空を黒く染め上げる大群。鳥の群れといえば聞こえはいいが、それらは決して、その風貌で人々の目を癒すことも、その囀りで人々の耳を楽しませることもない。ただ一つ言えることは、都会に住む人間にとっては、それらは害をもたらす以外になんら恵みを与えることはないということだけだった。
「せっかく住みやすい場所が出来たと思ったんだけどな」
「仕方ないよ。確かに僕らのマナーも悪かった」
 街路樹の上、二羽のカラスがぼやくように呟きながら身を寄せていた。
「マナーもなにも、あんなところに美味しいご飯があれば食べるに決まってるじゃないか」
「それはそうだけどね」
 都心部を中心に、カラスの被害が増えたのはいつごろからだっただろうか。人々の出すゴミを漁り、貪るように食い散らかし、その飛び立つ後には、それを誇るかのように無残に変わり果てた集積場を作り上げていく。
 そればかりではない。彼らは人間の子どもを襲うことすらあるのだ。
「自分の子どもを守っていただけなんだけどな」
 しかし、そんなことはお構いなしに、事態を重く見た人々は彼らを排斥するためにあらゆる手段を講じた。
「酷いよ。ここは天敵もいないし餌も豊富だ。自分たちでこんなにいい住処を作っているのに、どうして追い出そうとするんだ」
「きっと自分たちのことしか考えてないんだよ」
 街路樹には、既に他のカラスはいなかった。目の前にはネットの張られたゴミが積み上げられている。中にはたっぷりの生ゴミが入っていることだろう。パンパンに膨らんだ語馳走を前に、二羽のカラスはよだれを垂らしていた。
「あんなに近くにあるのに食べられないなんて……」
「いっそ、あれがなければ諦めがつくのに……」
「そうだよ。あんなにご馳走をいっぱい置いておきながら、食べるなっていう方が無理なんだよ」
 二羽のカラスはネットの前で歯噛みしている。
 一人の男が近づいてきた。男はカラスを鬱陶しそうに見ると、ネットを持ち上げ、ゴミの山を高くしていく。どの袋も膨れ上がり、あっという間に二つ目の山を作り上げていった。
「ご飯がいっぱいだ……」
「あれだけあれば一生困らないや……」
 うずたかく詰まれた山を前にして、二羽のカラスはそう呟く。
 この集積場は、昨日回収されたばかりであった――

「ねぇ、あれを見なよ」
 カラスの一羽がそう声をかけた。その翼の先にはガラス戸がある。もう一羽は目を輝かせた。あれはキラキラして、とても好きなのだ。
「そうじゃなくて、その先だよ」
 言われて覗いて見ると、なるほど、確かにその先には変な箱がある。中には人間が入っているようだ。その手にはおいしそうな魚が握られていた。
「あ!」
 その手を下げると、変な鳥の口に魚が放り込まれる。見たこともない、変な翼の鳥である。あれでは空を飛ぶことができないだろう。明らかに自分たちの方が優秀である。だというのに、あろうことかあの鳥は、人間に魚を貰っていた。
「なんなんだあれは!」
「だよね! だよね!」
 二羽のカラスは憤りを隠さず、その翼をばたつかせる。自分たちはご馳走を前によだれを垂らすだけなのに、あの鳥は何もせずにご飯を貰っているのである。
「うらやましい! うらやましいぞ!」
「だよね! だよね!」
「よし、僕らもあの鳥になって人間たちに餌を貰おうではないか!」
「そうしよう! そうしよう!」
 二羽のカラスはそう言うと、くちばしを使い、自らの翼から羽を一本ずつむしり取っていった。

「おかしい」
 すっかり羽をなくした二羽のカラスは、くちばしを広げ、魚屋の前に座っている。だが一向に店主は魚をくれる気配はなかった。
「なぜだろう……」
 二羽のカラスは飛ぶこともできず、二人で寄り添いあって餌を待つことしかできなかった。

fin


この作品はペンギンフェスタ用に書き下ろされた作品です。

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