
今は昔。
時代の琴線は、静寂の一途を爪弾いていた。
戦に駆り立てられることもなく、また大きな災害もない。
民は、才覚ある統治者の下で、安穏と生きることを選んだ。
それも、無理からぬことであった。
だがそれも長くは続かなかった。
時の権力者、性王の崩御である。
王宮は権力争いに揺れ、地方はこれ幸いと力を蓄えた。
乱世に覇権を求め、力のあるものは己の才を試すため、挙って名乗りを上げた。
ある者は国の王となり、またあるものはそれを助ける。
だがそれは、人々の犠牲によって成り立つものであることを、誰もが理解していた。
数多の国が生まれ、滅んでいった。
だが、着々と国土を広げていく国もある。
そして、時代はここに、二つの龍を生み出したのだ。
杯王(パイオウ)と、臀王(デンオウ)である。
杯王は圧政を敷き、臀王は良く民を導いた。
杯王の政治を象徴する言葉として『女に非ずんば胸が非ず』という言葉はあまりに有名である。
また臀王は『尻思う。故に我あり』との檄文を発し、諸国の理解を得ていた。
だが、互いの国は決して交わることはなかった。
両国の思想の違いは、決して埋まることのない亀裂を生み出していたのだ。
時は戦国。群雄割拠の時代である。
これは、ひとつの信念を貫き通す、女たちの戦いである。
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兵はニーソックスを尊ぶ(絵:おとぎさん)
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険しい山々に囲まれた小さな村。杯国と臀国の狭間に、それはあった。
「義姉上! 義姉上はおらぬか!」
長い廊下を駆ける音が、屋敷の中を闊歩していく。
その音がやむと、障子が開いた。飛び込んできたのは少女だ。
「なんだ騒々しい」
「義姉上! 尾国と擬国が、杯国に討ち滅ぼされてございます!」
「なんと! 杯め、また版図を拡げおったか」
義姉上と呼ばれた女性は、うんと唸った。
尾国は獣耳尻尾、擬国は擬人化を国教に据えた小国である。
民の数は小国なれど、将軍らは一騎当千の力を持っていたはずだ。
「風の噂に聞くところによれば、兵法を前に破れたとか」
「むむぅ、食氏の兵法か」
食氏の兵法とは。
えろい人が美人を前にして食指が動いたことから考案された兵法である。
その中には偏った嗜好を持つ人をも、一瞬にして虜にする技が記されている。
その内の一つ、上目使いで『お兄ちゃん……雷が怖くて眠れないの……』
はあまりにも有名であるが、これを討ち破るものは未だ現れてはいない。
ちなみに全部、美人計である。
「尾と擬が、おっぱいに屈したか……」
「義姉上。起つなら今かと」
「ふむ。申してみよ」
「はっ。尾と擬は小国なれど、濃い者たちの集まりでございます。
いくら巨万の兵を有する杯国であれ、次を攻めるは及ばず、必ず一息つくことにございましょう」
「そこに活路があると」
「然り。今、天下は二分してございます。付け入る隙は、そこにありましょう」
妹は、不適に笑って見せた。
「なるほど。おっぱいだ尻だと騒いでいるところに、横槍を入れるのだな」
「左様に。ならば、まずは人を揃えることが大事かと」
「よし、では早速装束に着替えるぞ」
二人はいそいそとニーソックスをはきだした。
太ももまで伸びるソックスと、ミニスカートの間から覗く白い太もも。
これこそ、彼女たちの信じる唯一の教義だった。
「では往くぞ! 百合花(ゆりか)よ!」
「はっ、どこまでもお供いたします。桃花(ももか)義姉上!」
こうして、二人のあてもないたびは始まった。
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村は臀国に属している。
比較的緩やかな統治にあり、中央では不満を持つものは少ない。
だが良き国に必ず良き役人がいるはずもなく、外れにある村付近では、山賊などがたむろしていた。
「義姉上、まずは我らと比較的近い、太ももやタイツ、ガーターベルトを取り込みましょう」
「しかし、彼女らがどこにおるかはわからんではないか」
「そこです。桃尻の誓い以後、臀国では尻以外は認められておらず、他の嗜好は地に潜りました」
桃尻の誓いとは。
臀国の将軍たちが『生まれた尻は違えども、死す時は同じ尻に埋もれて死にたい』と言って誓った義兄弟の契りである。
結果、一つの尻を取り合い、三日で解散した。
民衆に、尻の常習性と恐怖を知らしめた一幕である。
「ですから、まずは町に出て情報を収集しましょう」
「井の中の蛙、大腿を知らず。あのような狭い村にいては、何もわからぬも同然だからな」
井の中の蛙、大腿(だいたい)を知らずとは。
井戸の中にいる蛙は、井戸の中こそが世界と思い込み、素晴らしい太ももを知らないということから、
広くものを見ることが出来ないという意味の故事成語である。
太ももフェチなどにより、広く使われている。
二人は町に向かって歩いていく。そこに、喊声が聞こえてきた。
「なんだ?」
「義姉上。おそらく山賊の類でしょう」
「よし、行くぞ。もしかすると、才覚を持ったものがおるかもしれん」
二人は急いで声のした方へと走っていく。
そこには、地獄絵図が広がっていた。
「ひどいのぅ」
「義姉上……無事なものはおりませぬ」
死屍累々とはこのことか。路上には、たくさんの女性たちが折り重なっていた。
その女性たちの下半身には、皆例外なく黒タイツが履かされている。
「ひどい……あまりにひどい有様だ」
「黒タイツは、タイトスカートでなくてはならないというのに……異論は認める」
彼女たちは、糊で接着された黒タイツを剥がそうとしている。
けれど『まぁ尻のラインも出るし、別にいいんじゃね?』の一言で、元気に立ち上がった。
「義姉上……山賊は黒タイツの集団のようです。
自身の嗜好を広めるために糊まで使うとは、彼らは聞きしに勝る外道ですぞ」
「うむ。固定するのにソックタッチを使わぬとは、我らとは相容れぬかもしれぬ」
「仲間に取り立てるのは見合わせましょうか?」
「いや、あれを見よ」
桃花は指で示す。その先には、馬が捨てられていた。
おそらく山賊たちの手には余ったのだろう。となると、拠点は近く、動く気はないようだ。
「であれば、町に行き、噂を聞いてから判断しても遅くはないはずだ」
「さすがは義姉上。見事な慧眼、恐れ入ります」
「なに、本音は早く町に行って日焼け止めを買わないと、太ももが焼けるからなだけだ」
ニーソックスとミニスカートに挟まれた、眩いばかりの白い太ももは、確かに日に晒されていた。
「では急ぎましょう。白むが色気といいますからな」
白(しら)むが色気とは。
肌は白い方が色気があるという意味の言葉である。
転じて、女性の化粧の内側は知らない方がよいことから、
知らないからこそ幸福なこともあるという意味でもある。
対義語に、褐色足りて礼節を知るという言葉がある。
二人は女性たちを置いて、町へと下っていった。
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町に到着するや否や、二人は衛兵たちに囲まれてしまった。
「義姉上。どうやら、山賊たちと間違われている様子」
「そのようだ。さて困った。どうするか」
衛兵たちは尻を構え、油断なくこちらを睨みつけている。
「やりますか?」
「まぁ待て。安易に太ももを出せば、それこそやつらの思う壺」
「しかし、このままでは彼女らの尻が……」
滑らかな尻が、じりじりとこちらへとにじり寄ってくる。
その穂先が揺れる度に、百合花の頬から汗が滴り落ちていった。
「生きた心地がしませぬ」
「百合花よ。喋るでないぞ」
「は?」
桃花はそう言い、一歩前に出た。その瞬間、尻が桃花を囲む。
「尻をお収め下され。我々は怪しいものではありませぬ」
「お前たち、臀国の人間ではないな?」
「いえいえ、私は臀国の外れの村からやってきたのですよ」
「あの村か。だがそこからここまでは、山賊が出るはずだ。どうやって通った」
「山賊に襲われていた馬車を横目に。お役人様に御報告しようと急ぎ駆けつけて参りました」
ざわりと、衛兵たちが騒ぎ出す。尻が揺れていた。
「様子はどうであったか」
「はは。彼女らは尻私欲のために、民に黒タイツを強要しております」
尻私欲とは。
尻を求める欲望のこと。
だがここでは、言葉に尻を出すことにより信憑性を高めている。
ちなみに臀国では、尻私欲がない者は罰せられる。
「なんと! 賊は黒タイツであったか」
「失礼ですが、御存知ではなかったので?」
「うむ。最近妙に黒タイツが流行っているとは思っていたが……
尻のラインが出るからと、見逃しておったのだ」
臀国では、黒タイツはご法度ではない。
ただし、それはあくまで尻私欲のためである。
賊は、決して尻を愛でるためにタイツをはくに非ず。(ソースは筆者)
なればこそ、役人は賊を捕らえようとするのである。
「では早速、賊狩りへと出かける。皆のもの、いくぞ!」
「「おおー!」」
衛兵たちは尻を収めると、山へと向かっていった。
「勇ましいですな。あれこそがヒップの勇でございますか、義姉上」
「うむ。真、恐ろしい。いつかはあれらを打ち倒さねばならぬとはな」
ヒップの勇とは。
尻を愛するものの勇敢さである。
だが尻を愛する者は多いが、才覚を持った者は少ないため凡人が目立ちやすく、
血気にはやる蛮勇のことを指すこともある。
「では人から噂を聞き、今宵は作戦を立てることと致しましょう」
「うむ。では宿を取っておく。百合花は噂を聞きつけるのだ」
「御意に」
二人は互いに頷き合うと、別々の方向へと歩いていった。
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暗くなり宿に戻ると、二人は作戦会議を始めた。
「噂はどうであった?」
「はっ。概ね肯定的だったようです」
「ほぅ。それは何故だ?」
「彼女らは、圧政をしく役人しか狙わないのです。おそらく昼間の女性たちも、役人だったのでしょう」
「なるほど……足清ければタイツなし、か」
足清ければタイツなしとは。
あまりに足が綺麗なら、女性は露出しようとしてタイツをはかなくなるように、
あまりに厳格に過ぎると、人は好まないことの意である。
ただ生足が好きな人もいるので、どっちもどっちである。
ここでは賊が、厳しい政治に不満を持っていることを表現している。
「ではますます欲しい。明日、山に潜ろうと思う」
「昼の衛兵は?」
「全員、黒タイツをはいて戻ってきたそうだ」
「……他人事とは言え、心が痛みますな」
「うむ。せめてニーソックスならば……」
かたり、と音がした
「何奴!」
百合花は急ぎミニスカートをつまみ、太ももをさらけ出した。
だがそれも虚しく、賊らしきものの足音が遠ざかっていく。
「義姉上。賊を取り逃しました」
「ハァハァ……ハァハァ……」
「義姉上?」
「ハァハァ……ハァハァ……」
「義姉上! 私の太ももにハァハァしてる場合ではありません!」
「は! いかん、さすがは神の与えたもうた空間。危うく虜になるところであった」
桃花は気を取り直すと、障子を開き、賊を追う。
百合花もそれに続いた。
「おそらくは役人か。ニーソックスの名を出すべきではなかった」
「賊に気付かぬ、私の失態です」
「もう遅い。しかし、捕まえねば、もうこの町にはおれん」
尻以外は認められてはいない。
タイツはまだいい。だがニーソックスは尻を覆うこともないのだ。
これではどんな申し開きも出来はしまい。
だがおかしい。
賊は町を離れ、外へと向かっている。
あの方角は、かの黒タイツの賊がいる山か。
「どうやら、本物の賊であったようだな」
「いかがなさいますか?」
「捨て置く。どの道我らの思惑は伝えねばならん。一日早いところで問題はなかろう」
「で、ありますか」
桃花は踵を返し、宿へと戻っていく。
その後姿を眺める百合花の瞳には、憂慮の色が表れていた。
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「太鼓を叩けーっ!」
ぺちんぺちん。
尻を叩くけたたましい音に急かされ、桃花と百合花の二人は目を覚ました。
「賊を捕らえろーっ!」
ぺちんぺちん。
数人の足音が聞こえてくる。
百合花は障子の隙間から外を見た。その顔が驚愕に染まる。
「義姉上! 役人どもが、大挙して押し寄せてきます」
「なんと! まさか昨日の賊が知らせたか」
おそらくは、役人たちと戦わせて消耗させる気だろう。
ということは、我々と話すことはないと判断したようだ。
「裸婦の利を狙っているのか。喰わせものめ」
裸婦の利とは。
絵師がモデルの裸を描くと、それを見る人が一番の利益を得ることから生まれた故事成語である。
絵師、モデルの奮闘に関係なく、見る人だけが利益を得ることから、
二者の争いにつけこみ、第三者が弄せず利益を得ることを言う。
ちなみにモデルは二次元であることが多い。
「しかし義姉上。そんなことを言っている場合ではありませぬ」
「うむ。さすがにあの数を相手にはできん。ここは策を弄す」
「策? 一体どのような?」
「うむ。ありったけのニーソックスを水に濡らし、表に干すのだ」
「しかし義姉上。まだ洗濯ができてはいませぬ」
「構わぬ」
自信満々の桃花の言に、百合花は少しいぶかしんだ。
だが他にできることはない。
百合花は納得のいかない顔ながらも、着替えのニーソックスを干していった。
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そして敵陣。
「突撃ーっ!」
ぺちんぺちん。
陣太鼓のなる中、衛兵たちが宿の前まで到着した。
尻を前に向けての突撃は機動力にかける。
「あ、あれを見ろ!」
「ニーソックスだ! やはり賊であったか!」
「いや、しかしあれは……」
宿の表にはニーソックスが干してある。洗濯が終わったのだろう、水に濡れていた。
その数、実に三十足。
「だ、駄目だ。数で負けている!」
「も、戻れ! 増援を呼ぶんだ!」
衛兵たちは、口々に叫びながら、自身の陣地へと戻っていった。
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「義姉上。衛兵たちが戻っていきますぞ。一体、どのような仙術を使ったので?」
「まだ一時の猶予を得たに過ぎぬ。ここからよ」
桃花は緊張した面持ちで、書をしたため始める。
「次はそれで?」
「うむ。百合花よ、先ほどの衛兵の中で、見知った者はおったか?」
「はっ。長と思わしき者が、誰彼と申したような」
「ふむ。ではそれでいくか」
桃花は筆を走らせる。百合花は、不安げにそれを見ているだけだった。
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しばしの時間が経ち、衛兵たちの増援がやってきた。
その数、合わせて五十。
禍根を残すなとの配慮である。
よって長は変わり、より階級の高い者が指揮をとることとなる。
「突撃ーっ!」
ぺちんこぺちんこ。
陣太鼓の音と共に、咆哮が空気を振るわせる。
だが、それは一人の衛兵によって遮られた。
「長よ。使者が相手方より、書を持ってまいりました。我らの長へ、とのことです」
「ふむ。降伏か。読み上げてみよ」
「はっ」
衛兵は、朗々と書を読み上げた。
「誰彼よ。先ほどの撤退の手腕、真に見事なり。
ニーソックスへ攻撃はできぬとのお主の以前と変わらぬ愛に、思わず筆を執ってしまった。
お主のお陰で、こうして逃げることが出来た。また太ももへの愛を肴に、酒を飲み交わそうぞ」
衛兵が書を読み終わる。それと同時に、長は顔を真っ赤に染めながら立ち上がった。
「誰彼を呼べ! 裏切り者は、尻叩きにしてくれる!」
「はっ! 賊は?」
「追え! まだ近くにおるはずだ! 外へと追え!」
「ははっ!」
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「義姉上。今度はどんな仙術を? 衛兵どもが、散り散りになっていきます」
「ふふっ、ニーソ猫が噛む。油断したな」
ニーソ猫が噛むとは。
ニーソで猫を包んで遊んでいたら、猫がじゃれ付いて甘噛みしてしまったことから、
追い詰めてしまうと思わぬ反撃がくることを言う。
その際、猫がぶふっといったら、割と精神にくるので、注意と石鹸が必要である。
「さて、今のうちに町を出るぞ」
「しかし、どこへ?」
「我々を追い詰めた、黒タイツの輩を成敗しに行く」
「出来るのですか?」
「山へと向かったのでは、敵に地の利があろう。まずはおびき出さねばならぬ」
桃花は、置き捨てられていた馬を思い出す。
拠点が近い。ならば彼女らは周囲を知り尽くしているはずだ。
「一体どのように?」
「彼の尻、己の尻は、曲線柔らからず。考えておる」
彼の尻、己の尻は、曲線柔らからずとは。
敵の尻と自分の尻は、弧を描いているが特に触りたいと思わない(柔らかくないと例え)ことから、
やはり気兼ねなく触れる第三者の尻が一番だということ。
転じて、敵の尻と自分の尻の柔らかさを確かめることから、情報を得れば有利に働くと言う意。
大きさも重要で、大きい方が魅力的である。異論は認めない。
「さて、では衛兵どもに献策してやろうではないか」
桃花は小さく笑う。
その様子を見て、百合花は恐ろしいものに出会ったように、体を縮めた。
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「へへへ、お頭、今回も大量でしたね」
「そうだな。この調子でいけば、黒タイツが普及するのも遠くはないだろ」
盗賊たちの隠れ家は山の中腹ほどにあった。
山道からしばらくのところだ。
「しかし、お頭。あのニーソックスの奴らは本当によかったので?」
「あぁ。ニーソックスは股間の部分がないからな。あそこが一番重要だ」
「へへっ、そろそろ四面股歌になりそうですぜ」
四面股歌とは。
四方八方から股間を愛する歌が聴こえてくること。
転じて、敵に囲まれ孤立することを意味する。
が、股を愛する彼女たちにはむしろごほうびである。
「しかし、あいつらももうちょっと布地を増やせば――」
「しっ。静かに。何か聞こえる」
頭は部下を制した。
ぺっちんぺっちん。
「なんだ、この音は?」
ぺっちんぐぺっちんぐ。
「ま、まさか!」
山賊たちが立ち上がると同時に、無数の尻が草むらの陰から現れた。
「げげーっ! 衛兵たちが!」
「突撃ーっ!」
鬨の声をあげ、ぺちんぐぺちんぐと尻を叩きながら、衛兵たちは盗賊たちに襲い掛かっていく。
突然のことに、黒タイツを脱いだりはいたりして応戦するも、盗賊たちは次々と倒れていった。
「尻が! 尻がぁ!」
「お頭ー! 助けてくだせぇ」
次々と尻に埋もれていく部下たちを尻目に、頭は逃げ出した。
衛兵たちの一糸乱れぬ統率振りはすばらしかったが、北だけは逃げ道が開いていたのだ。
その様子を見て、部下たちも追って逃げていく。
「へへっ、私はタイツ公望になるんだ。こんなところで捕まってられるか」
タイツ公望とは。
えろい人が狩りに出かけるとき占うと、「タイツを補佐する人物に出会う」という結果がでた。
狩りに出かけると、一人の老人が釣りをしていた。
それはそれとして黒タイツに萌えた。
その故事により、タイツが好きな人をタイツ公望と言うようになったのである。
転じて、その時に見た釣り好きのことも言う。
そして、山賊たちは山を抜けた。
そこには、二人の女性が立ちはだかっていた。
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「義姉上……本当に賊が」
「あらかじめ衛兵に、北側だけをあけておいて逃がすよう献策したのだ。
先ほどの我々のように、ニーソ猫が噛むかもしれんし、
そもそも捕らえられては我々が成敗できんではないか」
「衛兵が、よく逃がすのを良しとしましたね」
「コート死してソープ見らるを恐れたのだ。所詮役人は自分の利益を追求するものだ」
コート死してソープ見らるとは。
変装用のコートが駄目になり、ソープに入るところを友人に見られることである。ちくしょう……
またその後、開き直って変装なしで通い、コートを捨てることから、
利用価値があるうちは使うが、無くなると捨てられるという意。
ここでは賊がいるうちは衛兵が必要だが、賊がいなくなればいらなくなるので、
捕らえない方がいいと言っている。
「なんだお前ら!」
「ふふ、賊が。我らが軍門に下るというのなら、見逃してやる」
「うるせぇ! おい、やっちまうぞ!」
咆哮を上げながら、賊たちは黒タイツを上げ下げしていく。
「くっ……義姉上、恐ろしい攻撃です。思わず黒タイツをはいてしまいそうです」
「ではこちらも、サイハイの陣で行くぞ」
サイハイの陣とは。
サイハイソックスは太ももまで届く靴下で、股間までの距離が短く後がないことから、
後に引けない状況のことを言う。
また、サイハイソックスがニーソックスと勘違いされて消えかけていることも要因の一つである。
「しかし、これでは数が違います!」
百合花も太ももを見せる。
その白さは賊たちを唸らせ、ある者は黒タイツを破り捨て、ある者は脱いでいく。
獅子奮迅の働きだった。
だが間髪おかず攻め立てる黒タイツの前に、体力を消耗していく。
「義姉上! 何か策はないのですか!」
「むぅ、これは予想以上だ。まさか黒タイツがこれほどまでとは」
「義姉上!」
百合花が黒タイツに飲み込まれていく。
もうはくしかない。百合花はそう呟いた。
そしてその爪先が黒タイツに伸びたとき、奇跡は起こった。
ぺっちんぺっちん。
ざわりとざわつく賊たち。
ぺっちんぐぺっちんぐ。
「こ、これは!」
尻太鼓が木霊する。それは四方から聞こえ、賊を取り囲んでいた。
「そんな……さっきの衛兵か! 早い。早すぎる!」
「お頭ぁ! どうしましょう!」
混乱する賊たち。
その機を逃さず、桃花は一段高い石に飛び乗った。
「聞けぃ! お主らは我々の術中にはまった! 此度は観念してタイツを引け!」
「なっ! そんなこと出来るわけが!」
「だが、我々も鬼ではない。臀国の統治は、尻しか見てはおらぬ。
変えねばならぬのだ! 全ての民が己を解放して生きられる世を作らねばならぬのだ!
そのための力となると誓うならば、我々と共に来い!」
「お、お前は……そこまで考えて……」
賊たちが崩れ落ちていく。
だが頭はいまだに頭を振りながら、タイツを重ね着していた。
頭としては、ここで降りるわけにはいかないのだろう。
桃花は、そんな頭の肩を叩いた。
「粘土ちょうだいと言うではないか。ここで破れても、恥ではないぞ」
「くっ……うぅ……すまねぇ」
粘土ちょうだいとは。
フィギュアが壊れた時、粘土で補修しようとして発したことから、
一度失敗した者が盛り返すことを言う。粘土だけに。
桃花は再び石に飛び乗り、大きく太ももをさらけ出した。
ニーソックスとスカートの間から漏れ出す白い光に、賊の目は釘付けになる。
「見よ! これがお前たちを導く光!
不可能を可能にする、神の与えたもうた絶対領域なるぞ!」
そこかしこから歓声が漏れる。
誰もが、彼女の絶対領域に見入っていた。
「絶対領域! 絶対領域!」
そして、どこからともなく声が上がった。
「絶対領域! 絶対領域!」
その様子を、百合花は呆然と見続けていた。
「そんな……義姉上、あれほど黒タイツに固執していた者どもが……
それは真に、神の与えしものでありましょうか」
「追い詰められ、弱ったところに救いを見出せば、人は落ちるものだ」
改心した賊たちは一斉に黒タイツを脱ぎ捨て、ニーソックスをはいていく。
「絶対領域! 絶対領域!」
賊たちの咆哮が木霊していく。それはやまびことなり、周囲の村々へと届いていった。
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賊たちに後を任せ、旅は続く。
ニーソックスを、絶対領域を天下に知らしめるまでは、二人の旅は終わらないのだ。
「義姉上、しかし解せませぬ。どうしてあそこで援軍が来たのですか?
臀国の衛兵にしては、あまりに早すぎると思うのですが」
「む? 援軍など来てはおらぬが?」
「しかし、あそこで尻太鼓が鳴ったではありませぬか」
百合花の疑問に、桃花は笑った。百合花はますます困惑する。
「簡単なことだ。宿の者に金を渡し人を集め、尻太鼓を叩かせたのだよ」
「なんと! ではあの援軍は全くの偽者……」
「その前に衛兵どもが尻太鼓を叩いて突撃してきたのだ。慌てふためくのも自明というものよ」
「御見それ致しました。義姉上の深慮遠謀、真に素晴らしい」
「よいよい。私もお前に謝らねばならぬことがあるからな」
突然の言葉に、百合花は困惑した。
「それは一体、何のことです?」
「うむ。実は金を使ったと申したが……」
桃花はそこで、一拍置いた。
「旅賃を、全て使うてしもうた」
「あ、義姉上!? あれは私が額に汗して集めた金でございましょう?」
「うむ。すまんと思っている」
少し足早に歩いて距離をとりながら、桃花は詫びる。
だが百合花がわなわなと震えだしたところで、全力で走り出した。
「義姉上ーっ! 今日という今日は許しませぬ!
だいたい、あなたは書ばかり読んで働かぬではありませぬか!」
「畑仕事などしてはおれんのだ!
第一、私が畑に出れば、またくすねるのかと諌めるではないか!
股下に冠を正さずだ!」
「疑うも何も、実際くすねておったではありませぬか!」
股下(こか)に冠を正さずとは。
股の下で帽子を正せば、痴漢をしていると疑われるように、
疑わしい行いは避けるようにせよ、との訓示。
最近は避けても、気がつけば捕まっているのもしばしば見られる。
走る二つの影。
ミニスカートとニーソックスの間から、白い輝きを発しながら、
二人は次の町へと走っていく。
旅は長い。
だが二人は続けるだろう。
いつの日か、絶対領域が世界を制するまで。
そして、全ての嗜好が理解を得られる日まで。
「義姉上ーっ!」
「許してくれぇ! 許してくれぇ!」
二人の声は、果てしなく続く青い空へと、響いていった。
fin
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付録 出展(本作での言葉)
■■■兵は神速を尊ぶ(兵はニーソックスを尊ぶ)
兵士の運用には速さが大事である。
別に格ゲーで速いキャラが強いと言うわけではない。
■■■平氏に非ずんば人に非ず(女に非ずんば胸が非ず)
平家の隆盛を誇った時代に、平家の権力を象徴する言葉である。
別に人外萌えなわけではない。
■■■我思う。故に我あり(尻思う。故に我あり)
哲学者デカルトの言葉である。
物事の全ては疑えるが、それを疑う自分は確かであるという意。
別に言葉通りに存在で存在を証明しているわけではない。
■■■孫子の兵法(食氏の兵法)
有名な兵法書である。
しょっぱなから相手を騙せとか書いてあるので、
正面突破しかしないスーパーロボットのパイロットに見せたいところである。
■■■桃園の誓い(桃尻の誓い)
三国志演義で、劉備、関羽、張飛の三人が義兄弟の契りを結んだとされる逸話。
嘘っぽいのだが、別に嘘でも盛り上がればいいと思っている。
■■■井の中の蛙、大海を知らず(井の中の蛙、大腿を知らず)
井戸の中の蛙は海を知らないことから、狭い了見に囚われていること。
個人的に、井戸の中で大成するなら別にいいと思う。
■■■知らぬが仏(白むが色気)
知らない方が穏やかでいられるということ。
推理小説は犯人を知った瞬間に冷めるのと同じである。
■■■衣食足りて礼節を知る(褐色足りて礼節を知る)
生活が安定して余裕が生まれて、初めて礼儀などが身につくのである。
ゲーム中にご飯に呼ばれ、急いで食べる小学生も余裕がないのである。
■■■匹夫の勇(ヒップの勇)
血気に逸る愚か者の勇気である。
これさえない者はどうしろと言うのだろう。
■■■水清ければ大魚なし(足清ければタイツなし)
あまりに水が澄んでいれば大魚が住まないように、
厳格にしすぎると、かえって人から好まれなくなることの意。
ただ、校則がゆるくなればアホが発生するので注意が必要である。
■■■漁夫の利(裸婦の利)
第三者が利益を得ることである。
あの時代にすでに貝と鳥を擬人化しているとは、中国始まってるな。
■■■窮鼠猫を噛む(ニーソ猫が噛む)
追い詰められれば、ねずみの様な小者でも敵に噛み付くという意。
だが世の中には、噛み付かれても痛くない人間もいるので、身の程は知るべきである。
■■■彼を知り、己を知れば、百戦危うからず(彼の尻、己の尻は、曲線柔らからず)
孫子の兵法である。敵や自分の情報を把握して戦いを挑めば勝つという意味。
ただ自分が不細工とわかれば、戦う毎に必ず危うし。
■■■四面楚歌(四面股歌)
項羽が自分の国(楚)の歌を歌う敵兵に囲まれ、楚が降伏したと思い込んだことから、
敵に囲まれて孤立無援の状態を言う。
ちょうど、J−POPを歌う友人に囲まれながらアニソンを歌うのと同じである。
■■■太公望(タイツ公望)
狩りに行く際の占いで「王を補佐する者が現れる」と言われ、
実際に行ってみると老人が釣りをしていた。
その老人を「これこそ太公が待ち望んでいた人物である」といって取り立てたことから、
老人は太公望と呼ばれた。また、日本ではこの故事にちなみ、釣り好きの意味がある。
個人的にキャッチ&リリースするぐらいならやるなと思うのだがどうだろう。
■■■狡兎死して走狗烹らる(コート死してソープ見らる)
兎がいなくなれば猟犬は必要なくなることから、
必要な時は酷使されるが、いらない時は捨てられることの意。
えろいサンプル動画を嬉々として集めるが、賢者タイムに突入すると急にどうでもよくなり消し、
次の日に後悔することもしばしばである。
■■■背水の陣(サイハイの陣)
韓信が川を背にし、兵士を引けない状況にして奮闘させたことから、
後に引けない状況のこと。
主にアイドルが脱いだ時の状況を言い表す。
■■■捲土重来(粘土ちょうだい)
一度敗れた者が、再び盛り返してくること。
スポーツでは、盛り返してもまた盛り返してくるので、終わりはない。
■■■李下に冠を正さず(股下に冠を正さず)
すももの木の下で冠を正しては、実を盗んでいると勘違いされることから、
疑わしい行いは避けた方がよいとのこと。
避けても先生は理不尽に怒るので注意が必要である。
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