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時は夏。今この日本の中で、一番熱い戦いが幕を開ける。
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パイ山鳴動す
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「ついにこの時が来たか」
俺はひとり、そう呟いた。目の前には、横断幕が翻っている。
『おっぱい揺らし選手権大会』
おっぱい聖人の称号を得るための国家試験の場。それがこの大会だ。
一年にひとり。有効期限は一年。それ故に、毎年死者の出るほどの熾烈な争いが行われている。
「ヒュ〜。どいつもこいつも、屈強の猛者たちばかりだぜ」
目を見ればわかる。周囲の人だかりは、参加者、感染――もとい、観戦者共に、手の施しようがない――もとい、並々ならぬ使い手たちだ。
揺らシスト。おっぱいを揺らすことに心血を注いだ、国民的英雄たちである。
いや、それは語弊がある。生まれたからには、人は全て揺らシストなのだ。
人は、村は、国は、世界は。この偉業に対し、真っ向から挑んでは敗れ続けてきた。
しかしそれでも、揺らシストたちの勢いは衰えることを知らない。
いや、むしろ難業であればあるほど、押し返されれば押し返されるほどに、揺らシストたちは挑戦していくのだ。
まるで、押せば弾力を返す、おっぱいのように。
そう、それもひとえに、おっぱいの魅力ゆえだろう。
「抱いてよし、吸ってよし、いじってよしが揃えば、それも当然か」
「甘いな」
「誰だ!」
振り返る。そこには、筋肉の鎧で固められた、一人の大男が立っていた。
「お前は、おっぱいの表面しか見えていない」
「なんだと! 貴様……何者だ!」
「人呼んで、流星の宗城(むねなり)」
「貴様が……昨年の覇者だというのか……」
「ルーキー、上がってきな」
宗城は大きく指で示した。掲示板には、トーナメント表が描かれている。
前回の覇者に相応しく、宗城は堂々のシードだった。
「追いついてやるぜ……絶対にな!」
「お前、名は?」
「政宗(まさむね)だ!」
「いい顔をしている。お前はいい揺らシストになる」
宗城はそう微笑み、去っていった。
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第一回戦。
ルールは簡単だ。目の前のおっぱいを、手を使わずに揺らせばいい。
だが簡単だけに奥が深い。それはもう、おっぱいの谷間ほどに奥が深い。
揺らシストたちはあらゆる手を使い、おっぱいを揺らしていく。
その技術の多様さは、軽く生態系を超え、『おっぱい千手』と呼ばれるほどだ。
「勝者! ストーム吉宗(よしむね)」
そしてまたひとり、勝者と敗者が決まった。
勝負の世界は残酷だ。
女神のおっぱいの寵愛を一身に受ける者。おっぱいから見放された者。
だがひとつだけ言えることがある。敗者に、明日はないのだ。
「これが二つの分かれ道ってわけか。おっぱいだけに」
次は俺の番だ。
「赤、ルーキー政宗! 青、エスパー棟(むね)! 前へ!」
審判の掛け声と共に、俺は闘技場に立った。
目の前の選手はどう考えてもおっぱいを揺らせそうにもない、貧弱な坊やだ。
俺は小さく笑った。
「悪いな。俺の勝ちだ」
「それはどうかな」
「何ぃ!?」
「始め!」
審判の掛け声と共に、目の前に二人の女性が現れた。
たわわに実ったおっぱいに目を奪われ、俺の攻め手が一瞬遅れる。
だが、その一瞬が命取りだ。
「先攻はもらうよ!」
棟が精神を集中させる。目を閉じ、力を溜めているようだ。
そして、その目が見開かれた時、奇跡は起こった。
「なんだと! おっぱいが……おっぱいが揺れている……」
「これが僕の力さ! おっぱいを揺らすためだけに女神から与えられた、サイコキネシスだよ!」
「ば、バカな……て、点数は!」
審査員たちを仰ぎ見る。すでに点数は出ていた。
震度4。一回戦には似つかわしくないほどの高得点に、会場は沸いている。
「だが、その程度だ」
「なんだって!」
「見よ! 俺の拳の生み出す風力を!」
俺のパンチが唸りを上げる。
その風圧はやすやすと風を生み出し、目の前の二つの丘を襲う。
会場が、沸騰した。
震度4.3。
「俺の勝ちだ」
「そ、そんな……僕の負けだなんて……」
「ふっ、そのサイコキネシス。今度からは環境問題にでも役立てるんだな」
「い、いやだ! ぼ、僕は……僕はおっぱいを揺らすために過酷な修行に耐えてきたんだ!」
棟の悲鳴が遠ざかっていく。敗者に明日はない。
そう、敗者には、もうおっぱいを揺らすことさえ許されないのだ。
「辛勝か……次にやれば、どうなるかわからんな」
俺はその呟きを残し、闘技場を去っていった。
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二回戦。
闘技場は異様なムードに包まれていた。
「そんな! ビキニについている金具とともに、電磁石で揺らすなんて!」
「ほっほっほ。ビキニとおっぱいをセットで考えられなかったお前の負けじゃて」
白衣の老人が、一回戦に続き二回戦を勝ち抜いていた。
あの顔は見たことがある。確か昨年、ノーベル賞をとったはずだ。
「順当にいけば、次の相手か」
「あら、そう簡単にいくかしら」
声に振り返る。そこには、立派なおっぱいを持った女がいた。
「お前は?」
「美霧音(みむね)よ。あなたの次の対戦相手ね」
「おいおい、冗談はその谷間にしまっておいてくれよ。女が対戦相手だって?」
「あら、悪いかしら」
「相手にならないね。体格、筋力、骨密度。どれをとっても男の方が有利だ。ま、女に生まれたことを呪うがいいさ」
「それでも、情熱があれば、おっぱいは揺らせるわ」
「どうだか」
「言っておくわ。私が、おっぱいを揺らすことに男女差がないことを、教えてあげる」
美霧音はそう言って、俺たちの闘技場へと進んでいった。
「赤、ルーキー政宗! 青、振動使い美霧音! 前へ!」
俺たちが開始線に立つと同時に、二人の女性が現れた。
そう、女だろうと条件は同じだ。目の前の二つのふくらみを揺らすことに変わりはない。
これが女が不利だという理由のひとつ。
俺のように拳の生み出す風を武器にするなら、筋力が欠かせないのだから。
「始めッ!」
開始の合図共に、二人は一斉に構えをとる。
だが、美霧音はおもむろに自分のおっぱいに手を添えた。
奇妙な行動に、俺の動きが一瞬止まる。
しまった、と思った時には、取り返しがつかなかった。
「見なさい! これが私の力よ!」
美霧音が自分のおっぱいを揺らしていく。これは震度7クラスか。
俺の額に汗が流れる。
だが、大会では自身のおっぱいの揺れは計算されない。
俺はほくそ笑んだ。
「どうやら、ルールも知らないようだな」
「それはどうかしら。見なさい! 目の前のおっぱいを!」
「何っ!? おっぱいが……揺れている……」
目の前の双丘は確かに揺れていた。触れてもいないのに何故。
「音叉の共鳴現象は知っているかしら。同じ音の音叉を並べて片方を鳴らせば、もう片方もその振動につられて音を発する」
「そうか! 自らのおっぱいを揺らすことで、おっぱいと共鳴したのか!」
「ふふふ……あなたにこれが出来て?」
出来ない。
俺が自分の胸部を揉みしだいたところで、せいぜい小学生が指をさして笑うぐらいだ。
それに楽しくないし。
得点は震度5。強敵だ。
「どうやら、数時間前の俺を超えなければならないようだな」
「なっ! その手は!」
「まさか二回戦でこれを使うとは思わなかったぜ!」
そう、拳ではなく、手の平で風を発生させる。
表面積が大きければ、それだけ送り出す風は大きくなる。
だが……
「やめなさい! 空気抵抗で、腕が使い物にならなくなるわよ!」
「はっ! おっぱいを揺らすためなら、この腕の一本ぐらいは惜しくない!」
「そんな……」
「くらえぃ!」
手の平が風を起こす。
それは突風となり、すべてを飲み尽す激流のように、おっぱいを揺らした。
「ぐあぁぁぁぁぁ!」
拳が悲鳴をあげる。震える手を庇いながら、俺は得点を見た。
震度5。同点だ。
「いえ、再試合はないわ。私の負けよ」
「美霧音……?」
「完敗だわ。私には、腕を失うほどの情熱はなかった。まだまだね」
「……女におっぱいを揺らすことは出来ないと思っていたが、認識を改める必要があるようだ」
「政宗?」
「教えられたよ。宣言は、見事に当たったようだな」
俺は手を差し伸べる。美霧音はそれを、力強く握り返した。
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三回戦。
「勝者! ストーム吉宗(よしむね)」
大会も後半戦に差し掛かり、会場の熱気は最高潮に達していた。
「やつもやるようだな……」
「わかるか。ルーキー」
「お前は、流星の宗城! どうしてここに!」
「腕を見せてみろ」
宗城は俺の右腕を抱え上げた。
「ぐあああああああああ!」
「やはりな。上げるだけでこの激痛。最早おっぱいを揺らすどころではあるまい」
「それでも、俺にはこれしかない……」
「闘志は衰えていないようだ」
宗城は俺の背中を指で強く押した。それだけで、痛みが少しずつ和らいでいく。
「宗城……なぜだ?」
「俺はおっぱいを極めすぎた。相手が不甲斐なくては張り合いがない。
おっぱいも敵も、張りがある方がいいということだ」
「その自信、後悔するぜ」
「させてみろ」
宗城はそう呟き去っていく。その背中に、俺は畏怖とも尊敬ともつかぬ感情を抱き始めていた。
そして、闘技場へ立つ。
「赤、ルーキー政宗! 青、ドクタームネオ! 前へ!」
腕は良好だ。これならあと数度は耐えられる。
「始めっ!」
「先攻だ!」
俺は、今度こそ拳を繰り出す。拳の生み出す風に、目の前のおっぱいは悲鳴を上げた。
震度4.5。なかなかの得点だ。
だが、ドクタームネオが視界に入った瞬間、俺は振り抜いた姿勢で固まった。
「ファン作動!」
扇風機のような機械が、駆動音を鳴らしながら風を送り出す。
側面から襲う風に、おっぱいは為す術もなく揺れ動いた。
「貴様も風使いか!」
「馬鹿を言ってはいかんよ。わしとお主の風には決定的な差がある。見よ!」
確かに、ムネオが揺らすおっぱいは、俺の揺らすおっぱいとは違う揺れ方だ。
だが何が違うと言うのだろう。
その時、観客席から声が上がった。
「揚力よ!」
「美霧音!? 揚力だって!」
「そう! おっぱいの上と下に流れる風の速さの違いを利用し、気圧差でおっぱいを持ち上げる力を得ているのよ!」
「なんだって!」
俺はドクタームネオを睨みつけた。
なんと言う恐ろしい男だ。
「わしはこの六十年、おっぱいを揺らすことだけを考えて科学に励んできた。お主が勝てんでも当然じゃわい」
「くっ……」
俺の得点はすでに出ている。打つ手はない。
ドクタームネオの点数が出た。
震度5.5。
勝てない……俺はここで負けるのか……
俺は、経験と科学に負けるのか……
「立てぃ!」
「はっ! その声は!」
野太い声。この力強い声は……
「流星の宗城!」
「人の力は歳月で決まるわけではない! そして、人間の肉体は、科学などに負けはしない!」
「宗城……」
「見せてやれ。人の可能性を!」
そうだ。俺はこんなところで負けるわけにはいかない。
極めると決めた道を、途中で諦めるわけにはいかないんだ。
「まだだ! 審査員! まだ俺は拳を振り抜いちゃいない!」
俺は右足を軸に回転した。振りぬいた拳は、再び次弾を装填する。
だがこれは諸刃の剣。体への負担は2倍、3倍へと跳ね上がる。
それでも、ここで負けるわけにはいかない。
「おおおおおおおおおおお!」
「いけない! 政宗! それ以上は体が――」
悲鳴を上げる美霧音を、大きな手が止める。宗城だ。
「止めるな美霧音。男には、やらなければならぬ時があるのだ」
「そんな! どうして男ってそうなの!? 残された者の気持ちを考えない!」
「おっぱいがあるから揺らす。それ以上に、理由が必要だろうか」
意識が遠のいていく。それでも、俺は拳を振りぬいた。
その衝撃は旋風を巻き起こし、おっぱいを荒れ狂わせる。
震度6。圧勝だった。
沸き立つ会場。そんな中、闘技場は静かだ。
「な、なぜ……わしが負ける……」
「当たり前だ。お前は負けるべくして負けたんだよ」
「わ、わしの六十年が! 負けるはずはない! 負けるはずはないのじゃ!」
「自らの力でおっぱいを揺らす。それが出来ない者に、未来はない」
ドクタームネオは俺の言葉を聞くとうな垂れ、闘技場を出るまでは一言として喋ることはなかった。
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四回戦準決勝。
「まさか、ここで当たるとはな」
動かない右腕を庇いながら、俺は対戦表を眺めていた。
次の対戦相手は優勝候補筆頭。流星の宗城。
「棄権しよう! 来年もあるじゃない!」
「美霧音……それは出来ない」
「どうして!」
最早立つことさえ限界な俺は、それでも闘技場へと歩いていく。
自らの力で開始線へと立つ。それは、揺らシストとしての最低限の礼儀だ。
「目の前に、おっぱいがあるからだ」
「私にはわからないよ! 女だから? 私が女だからわからないの?」
「違う。これは、揺らシストとしての……魂とも言うべきことだ」
「魂?」
闘技場へと続く廊下。俺は美霧音に微笑みかける。
「この世の全ては、おっぱいに通じている。二重スリット実験ってのを知ってるか?」
「いえ……」
「量子力学の有名な実験だ。
並べた二本のスリットに通した電子は、光の性質から、スクリーンに縞模様を生み出す。
だが電子がひとつでもそれが起こる。
粒子ひとつを送り出しているのに、その電子が分かれてスクリーンに映し出されてしまうんだ。
どうしてだかわかるか?」
「わからないわ」
「おっぱいが、分かれているからだ」
俺はこの世の真理を語り始める。
「そして、この実験により、電子が波動性と粒子性の二つの性質を持っていることがわかったんだ。
どうして二つの性質を持っていると思う?」
「それもわからないわ」
「おっぱいが、ふたつだからだ」
美霧音は息を呑んだ。
「全ての学はおっぱいに通ず。最先端の科学でさえ、おっぱいという方程式を解き明かすための道具でしかない。
積分や微分などの数学は、おっぱいの傾きや体積を求めるために発達したといっても過言ではないんだ」
「うそよ! そんなわけが……」
「宗教では、ゾロアスター教が古くから善悪の二つを教えとした。
ニーチェも善悪二元論を、陰陽道も陰と陽のふたつを基としている。
それらは全て、おっぱいがふたつだからだ。
身近なところでは、俺たちは無意識に、返答に『はい』と『いいえ』のふたつを求めてしまう」
「そんな……そんなものまでおっぱいに通じていただなんて……」
美霧音の体は震えている。真実の重さに耐えられなかったのか。
俺はそんな美霧音のおっぱいを、やさしく抱きしめた。
「何も名誉がほしいわけじゃない。ただ、おっぱいを求めなければ、人は先には進めない」
「政宗……わかったわ。もう何も言わない」
「ありがとう。勝ってくるよ」
美霧音の体から離れる。
ここから先は一人。だが背中に、力強い想いが伝わってくる。
「赤、ルーキー政宗! 青、流星の宗城! 前へ!」
昨年度覇者。流星の宗城。
おっぱい聖人と呼ばれた男が今、俺の目の前にそびえ立っている。
「小細工はなしだ! 俺の力を見せてやる!」
「始めッ!」
「先攻!」
拳に風を纏い、俺はおっぱいを揺らす。
「ぐぅ……」
だが、俺の右手は悲鳴を上げた。震える腕に力はない。
震度4。おっぱい聖人を相手にするには、あまりにも弱い。
「限界か。惜しかったな」
「なんだと……」
「これが、俺の力だ!」
宗城の拳が、舞った。
それは暗黒舞踏のようにたおやかで、かつ力強い。
だが、まるでおっぱいを包み込むようなその動きに、俺の違和感が増していく。
「風じゃ……ない……?」
おっぱいは激しく揺れている。だが拳の生み出す風で動いているわけではない。
いや、むしろ触れていないのに触れているかのように繊細な動きをしている。
こんなこと、ありえるわけがない。
「圧縮空気よ!」
「美霧音! なんだって!?」
「彼は超高速で拳を動かすことによって、空気の分子を圧縮し、空気の壁を作り出してしまうのよ!」
「バカな! なら、手袋越しにおっぱいを揺らしているのと同じじゃないか!」
そんな自由自在に動かせるのなら、勝ち目はない。
俺は列聖することの意味を感じ、目の前の男に恐怖さえ感じていた。
震度8。レベルが違った。
「か、勝てない……」
俺はここで負けてしまうのか。まだおっぱいの真理にたどりつけてはいない。
だが確かに、こんな未熟者には到達できない真理なのかもしれない。
「ふっ、女に助けられているお前には、この境地には辿り着けまいよ」
「なんだと……」
「俺は常にひとりだった。そして、だからこそおっぱいを求めたのだ。
この世の真理を得るために。ひとりでも生きていられると証明するために」
宗城は、大きく笑った。
「戦いの場では常にひとり。先ほどはお前に塩を送ったが、どうやら、パッド付きのブラで温泉旅行に行くように、意味のない行為だったようだな」
「ちがう……」
俺は立ち上がっていた。ふらふらと揺れる体で、それでも、二本の足は地に生えている。
「宗城。お前は勘違いをしている。人はひとりでは生きてはいけない」
「何を言っている。現に俺はひとりだ! だがこの地に君臨している。それが証明だ!」
「違う……違うよ、宗城……人は誰かを愛さなければ……二人でなければ生きていけないんだ……」
俺は、拳を握り締めた。
「だって……おっぱいは、ふたつでひとつなのだから……」
宗城は大きく息を呑んだ。だが遅い。
二度目の突風。俺の拳が風を生み、ふたつのおっぱいを躍動させていく。
それは愛し合う二人のように寄り添いながら、ステップを踏むように踊っている。
だが震度は7。まだ足りない。
「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
「バカな! それ以上は体が耐えられん! 死ぬ気か!」
「政宗! やめ――」
美霧音の叫びが途中で止まる。唇を噛み、涙を流しながら続けた。
「勝って! 政宗、勝って!」
三度目の拳。回転により、勢いは等比級数的に増えていく。
だが衝撃も倍倍だ。間接が悲鳴をあげ、骨が軋んでいく。
けれど止まれない。ひとりの強さに、負けるわけにはいかない。
「これが、俺たちの力だああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」
放たれたつむじ風の勢いに、俺自身が吹き飛ばされる。
目が霞んで得点が見えない。観客も静まり返っている。
勝ったのか。負けたのか。
俺の疑問に答えるかのように、足音が駆け寄ってきた。
「政宗!」
「美霧音……得点は……? 得点はどうなってる……?」
「そ、それは……」
言いよどむ美霧音。
「お前の、勝ちだ」
宗城の声がした。
震度8.2。ギリギリでもぎ取った勝利だ。
「お前こそ真のおっぱい聖人。パイントだ」
そう言って、宗城は俺を抱きしめた。
「表面しか見えていないのは、俺の方だったようだな。
おっぱいを制したつもりで、おっぱいの何たるかが見えていなかった」
「思い違いをしていただけさ。技術でも経験でも、俺はお前に勝てなかった」
「聞かせてくれないか? 俺はどこで間違ったのか」
「お前はもう、気付いているはずだ。ひとりの孤独を肯定することなく、人と一緒に、前を向いて歩くべきだとな」
俺は、強敵(とも)の体を抱きしめ返した。
「だって、おっぱいは常に、前を向いているのだから」
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決勝戦。
朦朧とする意識の中で、俺は闘技場へと歩いていた。
試合は近い。急がなくては。けれど足は動かなかった。
「もう体は限界よ! いくらなんでも無理よ!」
「美霧音……いかなければ……」
「意識もはっきりしてないじゃない!」
悲鳴のような声に、俺は目を閉じた。
壁伝いに歩いていけばいい。今は何も見ず、何も聞くまい。
「止めてよ! 誰か政宗を止めて! ねぇ宗城!」
「それはできない……」
「どうして!」
「揺らシストは、おっぱいを求める者。だがパイントは、おっぱいを背負う者。
その重さを一度でも感じた俺に、どうして政宗を止められようか」
「そんな……」
震度8。それは奇跡の数字。
国家資格であるおっぱい聖人。だがそれは、パイントを育成するための飾りでしかない。
なぜならおっぱいに限界はないからだ。資格で引く基準は、あくまで他人との競い合いで生まれる。
歴代おっぱい聖人の中では、震度6程度で資格を得たものもいる。
だから資格よりも、実力で得る称号というのも存在するのだ。
それがパイント。
震度8の偉業を達成できたものは、パイントと呼ばれ崇められる。
それは決して国家資格のように目に見えるものではない。
けれど揺らシストたちはそれを目指し、更なる高みを求めていく。
求めるものは資格ではないのだ。純粋な真理こそ、揺らシストたちが求める唯一の正義。
「もう、他人が口を出すものではない。政宗はそれを望んでいるのだ。
前に進む道を照らすことは出来ても、進む道を潰すようなことがあってはいかん。
ちょうどバストアップ体操を勧めることはあっても、豊胸手術を勧めることは出来んようにな」
「……そうね。その通りだわ」
俺の足が、闘技場に辿り着いた。
「生きて帰ってきて……政宗……」
「赤、ルーキー政宗! 青、ストーム吉宗! 前へ!」
開始線へと辿り着く。だが目の前にあるはずのおっぱいが見えない。
目が、見えない。
「満身創痍って感じですね」
対戦者の声。これは少年だろうか。
「始めっ!」
「でも手加減はしません! 先攻はもらいます!」
吉宗の叫びと共に、衝撃が走った。攻撃されたわけではない。
足元から響くその振動に、俺の目が見開かれる。
「さすがです。そんなぼろぼろの体でも、対戦相手が技をかければ、見えるようになるんですね」
「足を……床に……?」
吉宗の足は闘技場の床に深々と突き刺さっていた。
吉宗がにやりと笑う。
「こういうことです!」
咆哮。
それと同時に、大地が勢いよく揺れ始めた。
「地震……!? いや、違う。これは床が揺れているのか!」
母なる大地が、おっぱいに活力を与えていく。
見事としか言いようがなかった。
弾力が世界を包み、跳ねるふくらみは幸せを運んでいく。
人々の力では生み出すことの出来ない神秘が、ここに体現されていた。
「まさか! 大地の息吹だと!」
「宗城、知っているの?」
「あぁ、『おっぱい千手』の中でも、人の限界を超えた神の力として紹介されている。
あれを使える人間がいるとは……」
「そんな! 政宗はもうボロボロなのよ! そんなのって……」
「信じるしかない。あいつの、パイントとしての力を……」
震度9。最早人の為せる得点ではなかった。
今年はおっぱいの当たり年だ。数々の強敵たちを前に、俺は戦い抜いてきた。
決勝戦。最後の最後で、俺は負ける。
仕方のないことだ。俺の腕は動かない。そして、相手は人間離れをしている。
パイントとして、力強いパイントの誕生を喜ぶべきだ。
俺はそっと目を閉じた。意識が吸い込まれていく。おっぱいに埋もれてしまうように……
爆発音がした。
観客たちの悲鳴が聞こえてくる。
なんだ。何が起こっている?
「政宗! 大変! 空からなにかが……」
「美霧音……」
俺は目を開けた。
空には円盤が浮かんでいた。わけがわからない。
疑問を感じていると、空のスクリーンにひとつの顔が浮かんだ。
『我々はおっぱい星人。今からこの地球を侵略する』
「なんだと!」
『だが、我々は紳士だ。そこで、地球人の最も尊いとする、『おっぱい揺らし』で勝負をすることにした』
「くっ……なんて的確な判断なんだ……」
俺は苦々しく吐き捨てた。これ以上はない、紳士的な侵略方法だ。
これが成功すれば、誰も文句は言わないだろう。
『ちょうど、地球人のトップを決める戦いの最中だ。そこの二人と勝負をすることにする』
「構わないですよ! 僕の記録は震度9! 抜けるものなら抜いてみてください!」
『傲慢な』
おっぱい星人は、右腕を掲げた。
それと同時に、俺が揺らす予定だった美女のおっぱいが浮かび上がる。
「バカな! ありえません!」
『この世は全て、原子でできている。そして原子には、極性が存在する。
まるでおっぱいのように、対になって存在しているのだ。
プラスはマイナスに引かれ、マイナスはプラスに引かれる。
それをちょいと弄れば、この程度は造作もないこと』
「うそだ! 私は……私は宇宙の科学力に負けたって言うんですか……」
バインバインと揺れるおっぱいを、苦々しげに見つめる吉宗。
震度12。絶望的な数字だった。
「そういえば……聞いたことがある。パイントだった爺さんの言葉だ」
「政宗……一体何を?」
「この世の真理はおっぱい。それは宇宙とて例外ではない。いや、むしろ宇宙こそがおっぱいを体現している、と」
「どういうこと!?」
「地球には月がある。これは確かに、おっぱいのふたつである性質が現すものだ。けれど、宇宙は無数の銀河で埋め尽くされている」
美霧音は、小さく頷いた。
「爺さんは言っていた。見方を少し変えるんだ、とね」
「見方?」
「太陽は、銀河の中心だ。そして、おっぱいにも中心がある」
「!? それってまさか……」
「そう、先端の突起さ。これで宇宙の全てが、おっぱいで説明できる」
「じゃあおっぱい星人たちは、おっぱいの中で生きているってこと……そんなのに勝てるわけがない!」
美霧音の顔が青くなっていく。
確かに、このままでは未来はない。
おっぱいの中で生まれ、おっぱいの中で育ったおっぱい星人たちに敵う道理はなかった。
おっぱいに逆らうこと。それは世界の全てに逆らうことと同義なのだから。
「政宗くん!」
「? 吉宗……?」
「お願いです! 私の代わりに、戦ってください!」
吉宗の言葉。涙ながらに訴えるその熱い想いは、確かに俺の胸に響いてくる。
だが動けないのだ。俺の体は言うことを聞かないのだ。
「政宗くん……これを……」
吉宗は、そっと俺の手を持ち上げ、自分の胸に添えた。
「これは……お前、女だったのか……」
「貧乳でも、おっぱいを揺らしたかった……私は、それだけのために生きてきました」
「吉宗……」
「おっぱいを想う気持ちは誰にも負けません!
それは、この会場にいるみんなだって同じはずです!
おっぱい星人がなんですか! 地球人の誇りを、守ってください!」
吉宗のおっぱいから鼓動が聞こえてくる。それは熱い、魂の鼓動だった。
魂。
それが揺らシストたちを突き動かし、パイントたちを燃え上がらせていく。
「忘れていたよ……俺たちも、おっぱいの中で生きているんだ……」
俺はふらつく体で立ち上がった。右手は動かない。だが動かしてみせる。
そう、全てはおっぱいを揺らすために。
「おっぱいは……俺が揺らすおっぱいは、どこだ……」
「私のを! 私のを使って!」
「美霧音……しかし、どうなるかわからないんだぞ!」
「大丈夫」
そっと、美霧音は俺を抱きしめた。そのおっぱいに、俺の顔を埋める。
「あなたを、信じているから……」
「美霧音……」
もう、言葉は要らなかった。
『覚悟は決まったか』
「あぁ……地球は渡さない! 明日のおっぱいは、俺が切り開く!
フロントホックのブラのようにな!」
拳を振り上げ、一回転する。涼やかな風が会場に浸透していく。
震度は4。足りない。
更に回転し、二度目の拳。強風が吹き荒れ、全てを飲み込んでいく。
震度は6。まだ足りない。
手の平を広げ、更にもう一回転する。拳が悲鳴を上げた。それでもやめるわけにはいかない。
空気を切り裂き、嵐が舞う。塵が舞い上がり、全てを破壊し尽していった。
「くぅ……」
「美霧音!」
「大丈夫……まだ、大丈夫だよ……」
震度は8。足りないのだ。
だがもう、俺の力では限界だ。もう一振りも出来はしない。
体は爆発するかのごとく激痛を呼び、四肢は砕けようとしている。
それでも足りないなら、勝てはしない。
ここまでか……
俺の脳裏に、諦めにも似た感情が芽生え始めてきた。
『たわけっ! まだ諦めるには早い!』
「その声は! 爺さん!」
『お前には仲間がおる。戦ってきた強敵がおる。それらの結束は、決して甘いものではないぞ』
「爺さん……」
俺の目の前を、戦ってきた強敵が横切っていく。
支えてくれたみんなの姿も。
そして、目の前でおっぱいを揺らす美霧音がいる。
そうだ。俺にはこれだけの仲間がいる。これだけの力があるんだ。
『そうじゃ。忘れるな。仲間たちが集えば、それだけ力になるのじゃ。
その思い出が、互いへの想いが、そして、信じる力がな。
だから政宗。皆で寄り添って生きていくのじゃ。
まるで、寄せて上げるブラのようにな』
爺さんの幻は、その笑顔を最後に消えていった。
「おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺の右手が燃え上がっていく。
「まさか! 空気の摩擦で燃え上がったというのか!」
宗城の叫びが。
「空気が熱せられることで上昇気流が生じ、おっぱいの揺れも更にアップする……じゃが……」
ドクタームネオの分析が。
「あれだけの熱……人間じゃ耐えられない……」
エスパー棟の焦燥が。
「危険です! あれじゃあ、政宗くんの命が……」
吉宗の涙が。
そして、
「政宗……」
美霧音の、微笑が……
俺に、力を与えてくれる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
竜巻が発生する。それは会場の全てを壊しつくし、観客までをも襲っていく。
だが悲鳴は上がらなかった。いや、上げられなかった。
ひとりの男の魂の雄叫びと、おっぱいにかける情熱を、その胸に刻んでいるのだから。
そして、俺の拳は振りぬかれた。
全てを打ち壊す衝撃が、美霧音のおっぱいへと集約される。
揺れに揺れ、美霧音の顔が苦痛に歪む。
人知を超えた衝撃に、人間のおっぱいは耐えられるのか。
「いや、耐えられる。耐えられないはずがない」
宗城の呟き。それは何かを確信したものだった。
「最高のパイントが、最愛のおっぱいを目掛けて繰り出した技だ。耐えられぬわけがない」
そしてやはり、美霧音のおっぱいは最高の動きを見せ、その動きを止めた。
その顔に疲労はあれど、命に別状はない。
「政宗! やった! 私は耐え……た……」
体が、傾いていく。
「政宗!」
周囲の皆が駆け寄ってくる。だがそれも遠くの出来事のようだった。
意識が遠のいていく。俺の出来ることは、終わったのだ。
「俺は……爺さんみたいな、立派なパイントに……なれたかな……」
消えゆく意識。
だがそれを制したのは、他ならぬおっぱい星人だった。
円盤からの暖かな光に包まれ、俺の体が癒されていく。
「どうして……?」
『我々は紳士だ。偉大なるパイントに敬意を払うのは当然だ』
「おっぱい星人……」
『いや、もうパイントとは呼ぶまい』
円盤から降り立つおっぱい星人の手には、ふたつのバッジがあった。
『ユニバスト。宇宙において、偉大なる揺らシストに送られる称号だ』
「これを……俺に?」
『受け取ってほしい。侵略ではなく、交流の架け橋として』
俺はバッジを受け取った。そして、胸に取り付ける。
それはふたつの種族を現すかのように、よく映えた。なるほど。これは象徴なのだ。
俺はこれから、人間とおっぱい星人の両者を寄せ、支えていかなければならない。
まるでおっぱいを包み支える、ブラとしての役割を担っていかなければならないのだ。
「きっと分かり合っていけるさ」
『えぇ、そう思います』
「例えおっぱいがふたつに分かれているとしても」
『ふたつでひとつ。同じおっぱいなら、分かり合えない道理はないのですから』
得点版には、震度16の文字が、赤々と輝いていた。
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こうして、おっぱい星人たちとの邂逅は終わった。
分かり合えないものはない。それを信じ、両者はおっぱいを寄せるように近づいていった。
確かに、おっぱいに何かを挟んだかのように、ふたつの間には壁がある。
けれど、どんなに衝突しようとも、ふたつのおっぱいは完全に分かれはしないのだ。
この先の未来を作るのはあなた。
他人と手を結ぶのも、他人を排斥するのも、全てはあなた次第。
なぜなら、未来は無数にあるのだから。
そう、まるで先端から分かれていく母乳のように、無数に枝分かれをして、君の選択を待っているのだから。
fin
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