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私の小さな努力


「それが気に入ったのか?」
 そんな言葉に私は振り返った。目の前には銅像が展示されており、それを食い入るように見ていた私が気になったのだろう。
「いや、そう言うわけじゃないわ」
「せっかく誘ったんだから、もう少し面白そうな顔して欲しいんだがな」
「面白くないわけじゃないの」
 美術館にはたくさんの作品が並んでいる。絵画や染物、今日は茶器の特別展示もあった。そのどれもが興味深かったが、目の前にある銅像のような衝撃はなかった。この銅像は、泣いているのだ。
「泣いている? あぁなるほど」
「わかるの?」
「あぁ。雨ざらしだったからだろう。ここには屋根がないからな」
 彼は得意げに解説してくれる。
「酸性雨でやられたんだろ。溶けちゃったんだな。排気ガスなんかが空に昇って、雲を汚染するらしい」
「これがそうなの」
 話には聞いたことがあった。だけど実際に見るのは初めてだ。雨にうたれた銅像は、こんなに悲しげな顔になるのだろうか。
「外国じゃ、森が一つなくなるほどだそうだ。すごいよな」
「本当に」
 私は銅像を撫でた。そんなに悲しい顔をしないで欲しい。そんなに涙を流さないで欲しい。そうは思うが、その硬い涙は一向に拭えなかった。
 いったいなにがこんなに悲しいんだろう。自然を破壊する人間が嫌いなのだろうか。人を模した銅像は、その造物主をどう思っているのだろうか。
「俺にはこんな銅像の気持ちなんてわからないけどね」
「わからない……そうかもしれないわ」
 人間が生み出したはずの自分が、人間の行為の犠牲になっているのだ。きっと人間のことが理解できないだろう。
 私はそっと目を閉じて、もの言わぬ彼のためになにが出来るだろうと考えた。私一人が出来ることなんて限られている。でも私は涙に気付いてしまったのだ。見て見ぬふりは出来なかった。
「じゃ、帰ろうか。それとも、俺の部屋に来るか?」
 彼は車のキーを指で回しながら、笑顔で私を促した。
「そうね。やめとくわ。もう電話しないでね」
「え?」
 彼は心底意外そうな顔で私を見る。私はその顔を見て、笑顔でこう続けた。
「あなたの外車、彼に悪そうなんだもん」
 そう言って銅像にウインクする私に、彼は悲しそうな顔で答えるのだった。

fin


この作品はペンギンフェスタ用に書き下ろされた作品です。

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